実際の学習者のストーリーを紹介します。
今回紹介するのは、私が日本語教師になって1年目に受け持った学生です。
彼は、授業中に居眠りをしたり、携帯電話で動画を見たりするような、いわゆる真面目ではない学生でした。
そんな彼があることをきっかけに、日本語の勉強に真面目に取り組むようになりました。
目次
アルバイトは生き生き、授業中はスヤスヤな学生のストーリー
授業中にスヤスヤ居眠りする学生
あぁ、またあの学生が寝ている。
この学生が授業中に居眠りしているのは日常茶飯事でした。
そうなんです。彼は授業中によく居眠りをしていました。
授業中に誰かに迷惑をかけることはありませんでしたが、寝ていないときは携帯電話で動画を見る、メッセージをやり取りする、という感じで真面目に授業に取り組もうとしていませんでした。
他の先生からも授業中のその学生の態度が気になると指摘されていて、何度注意しても反省の色が見られない彼に、頭を悩ませていました。
学生と面談、授業中に居眠りしてしまう理由は?
学生と面談をして、彼の話を聞くことにしました。
「授業中になぜ寝てしまうのか」
「眠い原因はなぜか」
まずは、この2点を確認しました。
学生が授業中に眠くなってしまう原因は、アルバイトにありました。
なんと彼は、
電車で1時間もかけてアルバイトに通っていたのです。
寮から最寄り駅まで自転車で20分。そこから電車で1時間。着いた駅から歩いて10分のところにアルバイト先があって、往復通勤時間に3時間もかかっていました。
アルバイトから家に帰って宿題をすると、寝るのが深夜になってしまい、授業中は疲れて寝てしまうとのことでした。
どうしてそんな遠いところまでアルバイトに行くのか、信じられませんでした。
彼がそこでアルバイトを続ける理由は、
- 好きな溶接の仕事ができる
- アルバイト先の社長がいい人
ということでした。
そこのアルバイトは、同国出身の友人から紹介してもらった仕事でした。
彼は国で溶接の仕事経験があり、将来は日本で溶接の仕事に就きたいと考えていて、そのためにも今のアルバイト先なら経験が積めるのでいいと思っているようでした。
通勤に往復3時間もかかるアルバイト先ですが、彼は今のアルバイトを辞める気はないようです。
私は、果たしてそのアルバイトを続けるのが彼のためなのか、疑問に思っていました。
学生のアルバイト先に訪問することを決意
勤務していた日本語学校では、ときどき学生のアルバイト先に挨拶回りをしていました。
私は自ら手を挙げて、彼のアルバイト先に行ってみることにしました。
「彼がどのようなところで働いているのか、どんな様子で働いているのか」知りたかったのです。
生き生きと仕事をする学生
学生にはアルバイト先に行くことは言わないでおきました。理由は、普段の様子を見たかったからです。
実際に彼と同じ通勤経路を通ってみて
アルバイト先まで遠いな・・・
こんな遠くまでよく通っているな・・・
そう思いました。
アルバイト先に着いて、私が見たのは
授業中と違って生き生きと働く学生の姿でした。
アルバイト先の社長に彼の仕事の様子を聞くと、とても真面目に働いてくれているとのこと。
日本語力について聞くと、意志疎通はできているから問題ないが、欲を言えば、今は難しい指示を出すときは同国の友人に通訳をしてもらって説明しているので、
彼の日本語力がもっと上がったら、もっと仕事の指示やコミュニケーションもスムーズになると感じているようでした。
学生の日本語レベルは現在、ほとんど初級に近い初中級ぐらいです。どのぐらいかというと、難しい話はできないけど、自分の身の回りのことや簡単な会話ならできるレベルです。
あ!学生に見つかってしまった!
私を見た学生は驚いた様子です。
「先生、え、どうしてここにいるの?」
え?え?え?という顔をしています。
まあ、びっくりしたと思います。
その後、学生と社長の3人で話す機会をいただきました。
その時感じたのが、学生と社長はとてもいい関係を築けているということでした。
社長は気さくな方で、学生も社長を慕っているのがわかります。
後日、学生と再度面談をする
後日、学生と面談をしました。
学生は、私がアルバイト先に来てくれたことがすごく嬉しかったようです。
確かに、誰かに気にかけえもらえるのは嬉しいことですよね。
学生にアルバイト先の社長から聞いた話をしました。
真面目に働いてくれて、とても助かっていること。
ただ、もっと日本語が上手になれば指示もしやすいし、コミュニケーションもいっぱい取れること。
学生は真剣に話を聞いてくれています。
学生も社長ともっといろんな話をしたいけど、日本語ができないので、あまり話せないことを自覚していました。
「じゃあ、どうする??」
学生に問いかけました。
学生はちょっと考えた様子で、
「先生、もっと日本語の勉強頑張ります!」
日本語学習のモチベーションが上がったようです。
学生の日本語を勉強するモチベーション
お世話になっている社長ともっと日本語でコミュニケーションを取れるようになりたい!
それが今の学生の日本語学習のモチベーションでした。
誰かとコミュニケーションを取れるようになりたい!というのは、語学を勉強する上で、大切なモチベーションに繋がります。
確かに彼のアルバイト先は遠いところだけど、好きな仕事ができて、人にも恵まれ、いい環境にいると思います。
問題なのは、今の生活が本末転倒になっていることでした。
日本に留学すれば日本語ができるようになる!!
そう思うかもしれませんが、そうじゃありません。
実際は、授業以外で日本語を使う機会はあまりなくて、「日本留学をどう生かすか」は自分次第なのです。
今だけを見るのではなく、「日本語ができるようになってどうなりたいのか」を考えてほしいと思いました。
せっかく日本に留学に来たのだから、そのチャンスを生かす
日本語を学んで使う授業を無駄にしない
アルバイト先では学んだ日本語を使ってみる
今の日本語が学習できる環境を最大限に生かして活用したら、もっと日本語が伸びる!
日本語力が伸びれば、友達の通訳を介さないでも仕事の指示が理解できるようになるし、
今まで社長に言いたかったけど伝えられなかったことも話せるようになる!
そんな話をしました。
それからの彼は、授業中に全く居眠りしなくなったか、といったらそうではなくて、ときどきは居眠りをして注意することもありました。
しかし、携帯電話で動画を見ることはなくなり、授業を無駄にしないようにしよう!という姿勢は伝わってきました。
授業中も生き生きするようになりました。
後日談
しばらくして、彼のアルバイト先の社長に電話をしました。
日本語力は今日明日で伸びるものではありませんが、日本語を使ってコミュニケーションを取ろうとしてくれていて、それが嬉しいと話してくれました。
学生はというと・・・、社長と話したことを私に伝えてくれるようになりました。
社長と話せることが徐々に増えて嬉しいようです。
私自身は、最近のアルバイトはどう?と彼に声をかけるようになりました。
後々に彼は、日本語能力試験のN3に合格しました。N3の試験は日本に来て9か月目でした。
彼は非漢字圏の学生だったので、きちんと勉強しないとN3には合格できません。
往復の電車の通勤時間には、単語帳を開いて、言葉の勉強をしていたそうです。
N3合格は、真面目に日本語の勉強に取り組むようになって、彼が努力した結果だと思います。
追伸
今回紹介した学生は、日本語学校以外でも日本語を使う機会があって、アルバイト先に恵まれていたと思います。
日本語でコミュニケーションを取りたい!というのは、モチベーションに繋がります。
日本語を使う機会をどう生かすか、は本人次第です。
アルバイト先で、もっと日本人と話したい!!と思っても、実際には日本語力に自信がなくて話しかけられない学生も多いです。
今回は、アルバイト先を訪問し社長の考えを聞け、それを学生に伝えたことで、慕っている社長ともっとコミュニケーションを取れるようになりたい!と、日本語学習のモチベーションに繋がりました。
学生のモチベーション向上に一役買えたのかな?と思うと、私も嬉しかったです。
彼が日本語の勉強に真面目に取り組むようになり、日本語がどんどん上手になる姿を見られるのは私自身も教師を続けるモチベーションになりました。
以上、たのすけでした。
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日本語教師たのすけです。
恥ずかしがり屋で引っ込み思案・周りの目を気にしすぎる私でも、日本語教師の仕事にやりがいを持って働けるようになった授業のやり方を中心に、発信しています。