実際の学習者のストーリーを紹介します。
今回紹介する学生は、私が日本語教師になって4年目ぐらいに受け持った学生です。
日本に来たときは、ひらがな・カタカナの読み書きぐらいはできる学生がほとんどですが、
彼女は1カ月経ってもひらがな・カタカナを覚えられずに、これはまずいな…と感じ、何回も何回も面談をした学生で、とても印象に残っています。
そんな彼女でしたが、日本語の勉強に対して真面目に取り組むようになり、変わっていきました。そのエピソードを紹介します。
目次
日本語ができないのに、勉強をしない学生のストーリー
日本語ができないのに、勉強をしない学生
日本語が全然できない!!!
いや、日本語を勉強しない!!!
という学生がいました。
どのぐらい日本語ができないのかというと、日本に来て1カ月たっても、ひらがな・カタカナが覚えられませんでした。
一般的な留学生は、日本に来た時点で、ひらがな・カタカナの読み書きができる、日本語の文法が少しはわかる、という学生がほとんどです。
彼女はひらがな・カタカナのテストで合格点が取れずに、追試をしてもまた不合格、というようなレベルでした。
だからといって、日本語を一生懸命勉強しているような感じもありませんでした。
なぜそう感じたかというと、宿題に関しては、毎回友達の宿題を丸写しして提出していたからです。
私はこの学生の担任をしていたので、頭を悩ませていました。
「いったい彼女はどうして日本に来たのか」
「日本語を学んでどうしたいのか」
まずは、この2つを確認することにしました。
日本語ができないままでいい?
学生と話し合いができる共通言語がなかったので、スタッフに通訳をしてもらって学生と面談をすることにしました。
学生には事前に、授業が終わった後に面談をしましょうと伝えてありましたが、授業が終わったらすぐに帰ろうとしていました。
もちろん、それを見逃しませんでした。
私に声をかけられると、彼女は「早く帰りたいんだけど・・・!」という雰囲気を醸し出していました。
面談はそのとき1回だけでは終わりませんでした。
その後も何回か面談をしていたので、彼女は私のことをしつこいと感じていたと思います。
「どうして日本に留学に来たの?」
「日本はただ遊ぶために来たの?」
私は彼女の本音が知りたかったのです。
彼女は子供ではありません。日本に留学に来て真面目に勉強するのもしないのも、彼女次第です。
真面目に勉強をしないというのも彼女の選択なのですが、ただ、日本語の勉強に集中できないときは、何かしら問題を抱えていることが多いです。
日本語を勉強しない・できない理由があるなら、その問題を解決したり、日本語で何かをしたい!という目標があるなら、全力でサポートをしたりしたいと思っていました。
学生が勉強をしようとしない理由は・・・?
何回も面談をしているうちに、ポツリポツリと本音を話してくれるようになりました。
学生は将来日本で働きたくて、日本へ留学に来ました。
彼女自身も日本語ができないことは自覚していました。
でも、日本に来て家族がいない寂しさから、家にいるときは何時間も家族とSkypeで話をしていて、あまり勉強をしていませんでした。
日本語の勉強に関しては
「わからない…。難しい…」と思ったら、何から手を付けていいのかわからなくて、しかも授業はどんどん先に進んでしまい、負のスパイラルから抜け出せなくなっていました。
日本に来た理由、それは日本就職
彼女の目標、それは日本で働くことでした。
実は国に残してきた子供がいて、並々ならぬ決意で日本留学に来ていました。
しかし、今のままいけば将来日本で働くどころか、初級クラスの定期試験にすら合格できません。
初級クラスから抜け出すことはできずに、ずっと簡単な日本語だけを学び続けることになります。
つまり、日本語学校を卒業する時点で初級程度の日本語力しかなく、日本で働くことはおろか、進学だってできません。
ということは、必然的に国へ帰ることになります。将来、子供を日本に呼んで暮らす夢は叶いません。
それを伝えると、せっかく日本に留学までしたのに、子供のためにもこのままではいけない・・・そんな意識が学生に芽生え始めました。
学生の日本語学習に対する姿勢が変わり始める
何回も学生と話すうちに、学生の日本語に対する姿勢も変わってきました。
学生と、ひとまずの目標を作りました。それは、2か月後の定期試験合格(=N5クラス合格)です。
目標を決めた後は、友達の宿題を丸写ししていた学生が、もう一度宿題をくださいと言ってきました。
彼女が変わり始めた瞬間です。
しかし、日本に来て1カ月経ってもひらがな・カタカナが覚えられなかったわけですから、
同じクラスの他の学生よりも一歩も二歩も遅れていることは明らかでした。
クラスメイトは一生懸命に日本語が上手になりたいと頑張るその学生の姿を見て、日本語を教えたり、一緒に勉強したり、協力し始めました。
私もできる限りのことをサポートしようと常日頃から声をかけたり、
「日本語が話せた!」という達成感が味わえるように日本語で簡単な質問をして繰り返したり、ミニテストを行ったり、苦手な単元をまとめたプリントを渡したりました。
ほとんど日本語で会話ができなかった彼女ですが、少しずつ日本語で聞き取れることが増え、話せることが増えていくことは、さらにモチベーションに繋がっていったようです。
定期試験の結果は…
それから定期試験までの2カ月、人が変わったように日本語の勉強を始めました。
そしていよいよ迎えた定期試験の日。
毎回のことですが、実は学生と同じように私も定期試験の日は緊張しています。大袈裟ですけど、学生以上に緊張しているかもしれません。
彼女はというと、2か月前には想像できないぐらい日本語の学習に真面目に取り組んでいました。
寮が同室の友人にこっそり聞いても、寮でも勉強しているとのこと。
でも、定期試験に合格できるかどうかは不安がありました。
理由は、3カ月しかない中で1カ月も遅れを取った影響は、やっぱり大きいからです。
定期試験に一番緊張しているのは学生だと思いますが、私も緊張していました。
あとは学生を信じるしかないです。
試験が終わって、その学生の採点をしているとき、
〇なら「よしっ!」と思い、×なら「あぁ~!!!」と思いながら、採点しました。
全部採点し終わって、〇も多いけど、×もある
微妙なライン
どっち?どっち?
最後に得点を計算すると、、、、
合格点ーーーーー!!!
彼女の努力が実りました!
すっごく嬉しかったです!!
試験結果を返却するとき、その学生は手を合わせて祈るように待っていました。
返却された試験結果を見た瞬間、飛び上がって喜び、涙を流しました。
クラスメイトもみんな心配していていたので、クラス全員で喜びました。
クラスが一つになった瞬間です。
日本語教師として、感動の瞬間に立ち会うことができました。
後日談
学生は後に・・・
なんと!
日本の会社に就職が決まりました!!
初級クラスに合格した後も、日本語の面では他の学生よりは少し遅れを取っていたので、
彼女の目標である「日本で働く」のは難しいかも…と思っていました。
ところがです。
彼女は自分で就職先を見つけてきたのです。
やる気は人一倍です。
卒業時に、その学生の日本語力はペラペラとはまではいきませんでした。
しかし、彼女のいいところは「元気で明るくて一生懸命なところ」です。
そんな学生のいいところを評価してくれる企業がありました。
今の彼女なら、卒業した後も自分で日本語の勉強を続けることができます。
人間性を見てくれる会社に就職できてよかったです。
仕事が落ち着いたら、子供と日本で暮らすという夢を実現できると思います。
追伸
日本に留学すると、今までとは環境が変わり、不安やストレスも大きくなります。
それを解消しようと、今回紹介した学生は、せっかく日本に留学に来たけど毎日国の家族とSkypeばかりして不安や寂しさを紛らわせようとしていました。
実際に私もフィリピンに留学したとき、ホームシックになった経験があるので、学生の気持ちがよくわかります。
勉強するために留学したはずなのに、心が不安定だと勉強に集中できる精神ではないのです。
日本語の学習面では、わからないところがわからない、それで授業にはまったくついていけない、という状態でした。
彼女の場合は最初から躓いていましたが、
- どこからわからないのか
- 何をすればいいのか
を客観的に見て、寄り添ってサポートするのが、日本語教師の仕事で役目だと思っています。
他の国へ留学に行くことは、コンビニに行くみたいに気軽な気持ちでできることではありません。
せっかく決意をして日本に留学に来たのですから、そのチャンスを無駄にはしてほしくはないですよね。
日本に来て不安に思っていることがたくさんあるだろうし、日本に留学に来た目的や、目標・夢もあると思います。
しかし、日本語教師ができることって、実は限られています。気持ちに寄り添ったり日本語のサポートをしたりはできるけど、実際に日本語を勉強するのは教師じゃなくて、学生です。
どうしたらいい方向に向かって進んでいけるのか、寄り添って一緒に解決していくことは大事だと、彼女との体験を通して改めて感じました。
日本で就職先を自分で見つけてきた彼女が、
「先生、私、就職できたよ!!」
そう報告しに来てくれた彼女の笑顔は忘れられません。
以上、たのすけでした。
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日本語教師たのすけです。
恥ずかしがり屋で引っ込み思案・周りの目を気にしすぎる私でも、日本語教師の仕事にやりがいを持って働けるようになった授業のやり方を中心に、発信しています。