「初めて中級文法を教えることになったけど、どうやって教えたらいいの?」
「中級文法の導入や授業の進め方がわからない」
初級を教えられるようになって、次は中級と意気込んでいるあなた!こんな疑問や悩みを持っていませんか?
初級の教案はインターネット上にたくさんありますが、中級文法はインターネット上に公開されている教案がほとんどありません。
初級だったら「インターネットで調べて参考にして~」とできますが、それができないとなると、初めて中級文法を教えるときは不安ですよね。
私も初めて中級文法を教えることになったときは、教え方がわからなくて困ったので、その気持ちがよくわかります。
この記事では、初めて中級文法を教えることになった日本語教師の方に向けて書いています。
この記事を読めば、以下の疑問が解決します。
中級文法を教えることになったら、ぜひこの記事を読んでみてください。
気をつけるポイントや具体的な導入例がわかるので、役に立つはずですよ。
参考に「中上級の教え方 | 初級の次は中級を教えられる日本語教師に!」の記事もどうぞ。
目次
初級文法と中級文法の教え方の3つの違い
まずは、初級文法と中級文法の教え方の違いを知っておきましょう。
大きく違うことを3つ紹介します。
1.一つの文法にかけられる時間が初級より少なくなる
初級と違い中級になると、一つの文法にかけられる時間は少なくなります。
初級は「文法導入→説明→練習→活動(応用練習)」という流れで文法の学習をしてきましたが、中級は「文法導入→作文→問題演習」という流れが多いです。
初級では、4コマ(45分×4)で文型5~7個を上記のような流れで学習します。
しかし、中級は1コマ(45分)で3~6個ぐらいの文型を学習します。
中級になると、圧倒的に進むスピードが速くなります。
なぜなら、中級ではJLPTに合格するために、語彙・読解・聴解・漢字などや、敬語・会話の勉強もしなければならないからです。
2.絵カードやレアリアは使わずに言葉で導入する
初級のときは、基本的には絵カードを使って導入をします。ときどき、レアリアを使うこともあると思います。
理由は、絵カードなら視覚で場面がわかるので、状況がわかりやすいからです。
中級になると、基本は言葉だけで導入します。
どういうことかというと、学習者と会話のやり取りをしながら、導入をします。
「初級のときは絵カードに助けられていたのに…」と思うかもしれませんが、あまり心配することはありません。意外に、言葉で導入するのは難しくないんです。
導入例は、後ほど詳しく紹介しますね。
3.語彙のコントロールを初級ほど気にしなくてよい
中級は語彙のコントロールをあまり気にしなくてもいいです。
とはいっても、日本人でもあまり使わないような難しい言葉を使ってはいけませんよ。
初級の場合は、基本的にはその課までに学習した語彙しか使えませんでした。
「あれっ?あの言葉ってもう既習だっけ…?」と思って、教科書の語彙リストでいちいち言葉が既習か未習かを調べていませんでしたか?
特に日本語教師になりたての頃は、どの課でどの言葉を学習するのか把握できていないので、語彙のコントロールには苦労したかもしれません。
しかし、中級なら、難しい言葉や新しい言葉は日本語で説明すればいいのです。
初級の頃は、説明を理解できるほどの日本語力がありませんでしたが、中級になれば、ある程度理解できます。
語彙のコントロールをあまり意識しなくていいと思うと、ちょっと気持ちが楽になりませんか?^^
語彙のコントロールに関して、私の意見を「語彙のコントロールはしなきゃダメ?|日本語教師の疑問に見解を述べます」の記事で紹介しています。
中級文法を導入するときに気をつけたい5つのポイント
次に、中級文法を導入するときに気をつけたいポイントを5つ紹介します。
1.導入の例文は簡単な文にする
中級文法も初級文法と同じように、導入文は簡単な文にしましょう。
なぜなら、新しい文法を学習するのに言葉も知らなかったら、そもそも理解ができないからです。
新しい文法を学習するときは、例文で使う言葉は、できるだけ簡単で知っている言葉を選ぶのは基本です。
2.接続できる品詞の例文は、最低一つは考えておく
初級文法と同じように、中級文法でも接続できる品詞の例文は、最低一つは考えておきましょう。
例えば、普通形に接続する場合は、「動詞」「イ形容詞」「ナ形容詞」「名詞」に接続する例文を最低一つは考えておきます。
導入のときに、すべての接続の例文を提示できればいいのですが、時間の関係上、すべての例文を提示できない場合もあります。
しかし、学生に「名詞を使った例文を教えてください」と急に言われることもあるので、準備だけはしておきましょう。
3.導入はクラス全体を巻きこんでやる
中級は会話をしながら導入をします。そのとき、クラス全体を巻きこんでやるようにしましょう。
ある特定の学習者とだけやり取りをしてしまうと、他の学習者は聞いているだけになってしまいます。
できるだけ、学習者に授業に参加していると感じてもらうために、質問は多くの学習者にしましょう。
教師一人だけがずっと説明しているのは、絶対にNGです。
4.学習者からの質問も多くなるので、類似文型との違いを事前に調べておく
中級文法は、初級と比べて学習者からの質問が多くなります。
なぜなら、中級以上になると、「形の似ている文法」「意味の似ている文法」が増えるからです。
学習者は「あれ?この文法は、以前学習した文法と似ているけど、何が違うのかな?」と疑問に思います。
疑問に思ったことは日本語教師に質問します。
初級文法で質問が少なかったのは、そもそも質問できるぐらいの日本語力がなかったり、似ている文法自体が少なかったからです。
中級文法を教えるときは、必ず教える文法と「意味の似ている文法」を調べて、違いについて答えられるようにしておきましょう。
授業の前に、以下の本で類似文型を調べておくことをおすすめします。
▼類似文型が何かが載っているので、把握しやすいです。
▼類似文型の違いの解説がわかりやすいです。
おすすめの中級文法の本は「中級以上を教える日本語教師へ!おすすめの文法の本【厳選5冊】」の記事で紹介していますので、よかったらご覧ください。
5.学習者が混乱しないように、教師から類似文型との違いは提示しない
中級文法は「形の似ている文法」「意味の似ている文法」が増えます。
JLPTに出やすい文法は類似文型との違いを取り上げてもいいですが、あえて類似文型を教師から提示する必要はありません。なぜなら、余計な混乱を招くからです。
私は一度経験があるのですが、混乱してしまうと収集つかない事態になります。学生も私自身もわけがわからなくなり、パニックになりました。(泣)
【参考】N3文法授業で大失敗!失敗の経験から日本語教師に伝えたい3つのこと
今では、わからない質問が出たときも上手く対処できるようになりました。それに関しては、「学習者から答えられない質問をされたときの3つの対処法|日本語教師の疑問」の記事で紹介しています。
話はそれましたが、私の場合は文法導入のときは、学習者から質問があった場合のみ、説明していました。
違いについては、問題演習で似ている文法が取り上げられるので、その時に説明していました。
(例)中級文法の導入「~わけがない」
では、さっそく中級文法を教師(T)と学習者(S)の会話で導入していきます。
「~わけがない」の文法を導入します。
一つ目の導入【例】
T:S1さんは漢字が好きですか?
S1:はい、好きです。
T:S2さんはどうですか?
S2:私は漢字が好きじゃありません。
T:そうですか。S3さんは、一日に漢字を何個覚えられますか?
S3:うーん…私は10個覚えられると思います。
T:S4さんは?
S4:多分、5個ぐらいです。
T:そうですか。実は…、明日漢字のテストをします。100個あります。ですから、みなさんは明日までに漢字を100個覚えてきてください。
S:ええーーー!!
T:S5さん、明日までに漢字を100個覚えられますか?
S5:できません。
T:S6さんは?
S6:絶対無理です。
T:そうですか。みなさんは、1日で漢字を100個、絶対覚えられないと思っているんですね。では、その時にこう言います。「1日で漢字を100個覚えられるわけがない」
(板書)
1日で漢字を100個覚えられるわけがない。
T:「~わけがない」は、「絶対~ない」ときに使います。「~わけがない」は、私の考えです。「~わけがない」の前は普通形です。
二つ目の導入【例】
T:S1さんはパソコンを持っていますか?
S1:はい、持っています。
T:S2さんは、パソコンを持っていますか?
S2:はい、私も持っています。
T:S3さん、日本でパソコンがいくらぐらいか知っていますか?
S3:はい。この前、電気屋さんに行きました。10万円ぐらいでした。
T:そうですね。日本でパソコンは高いです。5~15万円ぐらいです。
S:え~、高いです。
T:そうです。とても高いです。でも、私は秋葉原でとても安いパソコンを買いました。S4さん、いくらだと思いますか?
S4:うーん、3万円?
T:S5さんは?
S5:4万円!
T:1,000円です。
S:ええーーー!!うそだ!安すぎます。
T:安すぎますよね。
S:先生、それは嘘だと思います。
T:Sさんは、パソコンが1,000円、絶対に買えないと思いますか?
S:はい、思います。1000円でパソコンは買えません。
T:そうですか。1000円でパソコンを買えないと思うんですね。そのときは「1000円でパソコンを買えるわけがない」と言います。絶対安くないと思うなら、「パソコンがそんなに安いわけがない」もいいですね。
(板書)
- 1,000円でパソコンが買えるわけがない。
- パソコンがそんなに安いわけがない。
T:「~わけがない」は「絶対~ない」と思うときに使います。「~わけがない」の前は、普通形です。自分の考えを言うときに使います。
どうでしたか?中級文法を導入するイメージはつかめましたか?
ここでは、導入例は2つしか紹介していませんが、実際は3・4つ用意しておきしょう。
例文をたくさん準備しておけば、学習者の理解度によって提示する例文の数を変えられるので、いいですよ。
接続が多ければ、すべての接続の例文を考えておきましょう。
「~わけがない」では、類似文型に「~はずがない」「~わけではない」「~わけにはいかない」があります。
学習者から類似文型について聞かれるかもしれないので、類似文型は事前に調べておきましょう。
中級文法の例文や類似文型との違いは当ブログでも紹介しているので、ぜひご活用ください。≫JLPT文法一覧
(例)中級文法の授業の進め方「~わけがない」
中級文法の大まかな授業の進め方を紹介します。
詳しく解説します。
1.導入
導入は、上の例で示した通りです。
導入と説明をした後は、教科書に書いてある例文を学習者に読んでもらいましょう。
2.作文(練習)
作文では、学習者に文を作ってもらいます。
作文とは練習のことで、学習した文法を使えるようにするため、理解を深めるために行います。
まずは、前件・後件のどちらかを固定します。例えば、「~わけがない」なら、以下のような作文ができます。
- 日本に来たばかりなので、________。
- お金がないので、________。
前件・後件作文ができたら、「~わけがない」を使って文を作ります。
練習は、初級文法と同じように、徐々に難易度をあげます。
作文する時間を少し取ったら、学習者が作った文をクラスで共有しましょう。
いい例文を紹介するだけでなく、よくある間違えがあったら、クラスで共有するのもいいですね。
3.問題演習
文法書によっては、問題演習は文法ごとにある場合と課の後にまとめてある場合があります。
どこで問題演習をするのかは、使う教科書に合わせましょう。
問題演習はきちんと予習をし、学習者が間違った場合に解説できるように、また質問があったら答えられるようにしておきましょう。
【まとめ】中級文法は初級文法と教え方が違うが、ポイントを押さえれば大丈夫!
中級文法の教え方はイメージできたでしょうか?
紹介した授業の進め方は、実際に私が日本語学校で教えていた進め方です。
日本語学校によっては、進め方のやり方があるかもしれないので、まずは聞いたり、できれば授業見学をさせてもらうといいと思います。
「中級文法だから教えるのは難しいかな…」と心配する必要はありません。
一つの文法にかけられる時間は初級よりも短くなりますが、その分学習者の理解度も早いですし、説明で使える日本語も増えます。
今回紹介した中級文法を教えるときに気をつけたいポイントを押さえて、流れの通りにやれば大丈夫です。
学習者とやり取りできることも増えるので、中級文法を教えるのは面白いですよ。
ぜひ、中級文法の面白さを知ってくださいね。
日本語教師になったばかりで授業のやり方に自信がない、と悩んでいませんか・・・?
授業に必要な準備のやり方と、日本語教師としておさえておきたいことをギュッと7日間にまとめました。
それは、こちらでお届けしています。
以上、たのすけでした。
日本語教師のまとめ記事はこちら
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日本語教師たのすけです。
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